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温度計の上昇と再臨界について(2013年1月13日)

2013年1月13日掲載
2013年1月28日改訂

(注意:このページは管理人の私見であり、東電の会見内容ではありません。また、管理人はほんのシロウトなので、ここに書いてある事は間違っている可能性があります。)

温度計の値が上昇した時に、それが温度計の故障なのかそれとも再臨界なのか、どうすれば分かるか?結論から言うと、以下の2点をチェックすれば良い。

  • 温度計のグラフで連動した動きが複数あれば、実際に温度が上昇している。
  • 希ガスモニターで135Xe(キセノン135)が1Bq/cm3以上なら再臨界。

温度計のグラフや135Xeの値は東電のサイトで見られる。下はプラント関連パラメータのページのキャプチャ。見るべきデータはすべてこのページにある。
(以下、2017年2月7日追記。プラント関連パラメータのページは、「リアルタイムデータ」が2017年2月7日に追加されているが、パラメータの総括表や温度のグラフはリアルタイムデータの下にある「プラントデータ」のところに残っている。)
温度計のグラフには、冷温停止状態を監視するために保安規定で指定されている温度計のデータがすべて表示されている。
135Xeの値は「プラント関連パラメータ(総括表)」にその日の05:00または11:00のデータが載っている。「1時間毎のデータ(CSV)」のほうにはCSVファイルとしてA系とB系の1時間毎のデータが載っている。項目名は「PCVガス管理システム放射能濃度(Xe 135)(A)[指示値]」と「PCVガス管理システム放射能濃度(Xe 135)(B)[指示値]」。検出限界値の項目もあるので間違わないように。


他の温度計を見る

なぜ他の温度計にこだわるかというと、別に多数決で決めようというわけではなくて、熱はまわりにどんどん伝わって同じ温度になろうとする性質があるから。たとえば、やかんをガスコンロにかけてお湯を沸かすと、注ぎ口の先端も結構熱くなっているはず。直接火が当たっているわけではないのに注ぎ口が熱くなるのは、火から供給される熱が広がり伝わっているから。フライパンや中華鍋の持ち手が熱くなるのもそうだ。原子炉の圧力容器も同じで、1ヵ所で温度が上昇すればどんどんまわりにも熱が広がり他の温度計にも連動した動きがみえるはず。圧力容器は鋼鉄製で、2号機なら底部の厚さは15cmほど。鋼鉄は金属で熱を伝えやすい。圧力容器の温度計は容器の外側についているので、もし容器の内側で温度が上昇しても、15cmの厚みを伝わって外側の温度計まで来る間にまわりにもどんどん熱が広がるので、1ヵ所だけで温度が上昇し続けるということはありそうにない。もし、温度計がひとつだけ上昇しているなら、それが実際の温度である可能性は低い(故障している可能性が高い)。逆に、同じようなタイミングで他の温度計が一緒に上昇もしくは下降していれば、それは実際の温度を見ている可能性が高い。これが、他の温度計を見る、という理由。
となると、実は、温度計の値だけを見ていても再臨界を見逃すかもしれない、ということになる。再臨界が局所的で発熱量が小さければ、熱は薄く広がって温度計ですぐに検知できない可能性があるからだ。それに、格納容器に落ちている燃料が再臨界したら、それを圧力容器の温度計や格納容器の雰囲気温度計ですばやく検知するのは難しいかもしれない。つまり、温度計に注目するだけでは不十分、ということ。ではどうするか、とういと、もっと直接に再臨界の有無を知る方法がある。

135Xe(キセノン135)が増えたら再臨界

135Xeは核燃料(235Uや239Pu)が核分裂した際にできる物質で、「希ガス」という種類のもの。希ガスは他の物質とは反応・結合しない。したがって、水と反応してとけ込んだり、他の物質と結合して沈殿したりする事がない。発生すると必ず気体(ガス)になる。ということは、圧力容器や格納容器のなかで再臨界が起きれば、中の空気に必ず135Xeが出てくる。しかも、135Xeは半減期が約9時間と短いので、これが検出されればつい最近に核分裂反応が起きたという証拠になる。格納容器ガス管理システム(格納容器内の気体を排気ファンで吸い出し、フィルターを通してヨウ素やセシウムを取除いてから大気へ排出している)にはこの135Xeの濃度を測る希ガスモニターが付いている。これの測定値が1Bq/cm3以上あると、再臨界が起きているということになる。

核分裂反応はいつも起きている

1時間毎のデータ(CSVファイル)を見ると、2号機と3号機は135Xeの測定値がNDなのに対し、1号機では10-3Bq/cm3程度が検出されている。じゃぁ、1号機は再臨界なのか?というと、そうではない。実は、核分裂反応は、非常に少ないけれど常に起きているのだ。したがって、これによって発生した135Xeは少量だけれど常に存在している。1号機の希ガスモニターは2、3号機のモニターと比べて高精度(検出限界が2桁小さい)なので135Xeの測定値が出せるだけで、2、3号機でもモニターの精度が高ければいくらかの135Xeが検出されるはずである。でも、核分裂反応が起きているのに再臨界ではないとか、いったいどういう事?

臨界とは核分裂反応が大量に起きている状態

臨界ではないのにぽちぽちと起きている核分裂を自発核分裂という。核分裂すると中性子がなかから飛び出してくる。この中性子がほかの核燃料に遭遇すると、新たに核分裂が起きる。そしてまた中性子が出てきて次の核分裂が起きる……というのが次々と連鎖して起きている状態を「臨界」と言う。中性子を仲立ちにして次々と核分裂が起きている状態。ところが、核分裂によって出てきた中性子は勢い良く飛び出していくので、あっという間にどこかへ行ってしまうのだ。そうすると次の核分裂が起きない。これでは臨界にならない。そこで、核燃料の周囲を減速材(中性子のすっ飛んでいくスピードを減速する)でおおってしまう。そうすると、核分裂で出てきた中性子は勢いを失ってふらふらと近くをうろつくようになる。そして核燃料と遭遇して次の核分裂が起きて中性子が出てきて(以下繰り返し)。こうして、中性子の勢いを適当に調整する事で、連鎖的に起きる核分裂をいい具合にコントロールして発電するのが原子力発電。実際の原子炉(軽水炉)では減速材として水を使って臨界を維持している。ということは、現在の1-3号機では圧力容器に水がたまっていない可能性があるが、仮にそうだとすると、そのことはむしろ臨界を起こさない方向に働いているということになる。そして、臨界にはなっていないけれどもぽちぽちと自発核分裂は起きていて、そのために135Xeもちょっとだけ常に発生している、ということである。もし再び臨界になれば大量の135Xeが発生してくるだろう。その判断の基準が「1Bq/cm3以上」なのである。
ところで、現状では原子炉の中に減速材がない、ということは、中性子線がバンバン外に出てるんじゃないの?と思うかもしれないが、そういうことはない。なぜなら、自発核分裂はとても少ししか起きないから。それに、格納容器は分厚いコンクリート壁で囲まれていて、これで中性子線は遮蔽できるので大丈夫。そうじゃないと、通常運転してる原子炉とか中性子線漏れまくりでえらい騒ぎだから。

(2016年4月5日追記)臨界についてはこちらを参照→【臨界/未臨界】核分裂連鎖反応が長続きする条件とは? - Togetterまとめ

これからも温度計は壊れ続ける

事故時の高温やその後の多湿により、設計時には想定しなかった環境に置かれてきたために、もともとあった温度計はすでにいくつもお亡くなりになっている。けれども、燃料デブリの取出しが開始されるのは10年先という話で、それまでは冷温停止状態を維持しなければならない。そのための温度管理に温度計は必須である。熱電対温度計の寿命がどれくらいなのか知らないけれど、2号機だけじゃなくて1、3号機の温度計も10年後まで大丈夫という保証はない。というか多分、壊れ続けていくんだと思う。だから、温度計の値が上昇した時に、それが温度計の故障なのか本物の再臨界なのかを見極めなければならない場面は今後も続く事だろう。
一方で、新たに温度計を設置するという作業も行われている。2号機では去年の10月に圧力容器下部に温度計(TE-2-3-69R)がひとつ新設された。さらに別の温度計を設置しようという試みも続けられている。また、1号機と2号機の格納容器の中には温度計が挿入されて運用が開始されている。1、3号機の圧力容器については具体的な話はまだ聞かないけれど、将来を見越して検討は始められているみたい。

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